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切通理作
2013.12.29 09:31

本当の危機はそこまで来ている

                                

 小林さんによって問いかけられた、安倍首相の靖国参拝問題に対する、このブログで示された小林さんと高森さんの「温度差」をどう捉えるか……という問題。


   
僕は、英霊を参拝することがなぜ政治的案件にならなければならないのか、そんなことまでいちいち諸外国のご機嫌を伺わなくてはならないのかという、理不尽な思いが一方であります。

  方や、参拝したはいいけれど、かつて批判していたはずの戦後レジームそのものの声明を出し、たとえ自衛でも日本人が戦争をすることは過去から未来にわたって罪であると認めてしまった首相の態度には、「信じられない」という思いがあります。


 参拝も自由にできない理不尽があったのは事実ですが、しかしそこだけが残って、あとは全部形骸化どころか外堀を埋められてしまった格好になっているのではないかと。

  これでは靖国神社が、そのまま「無宗教の慰霊施設」とやらになってしまったのと変わらない・・・とは言いすぎにしても、英霊の側面を完全否定しての参拝であることはたしか。

 

 かつて道場に、当時は首相ではなかった安倍晋三氏がゲストに予定されていた時、私は氏の著書『美しい国へ』を下準備で読みました。

 そこには戦後レジームの否定が掲げられていたけれど、対米従属にはなんら疑問が呈されておらず、むしろ積極的に必要なことと書かれてありました。

 私はそこに疑問を抱きました。

 対米関係を射程に入れない戦後レジームなど、存在するのか。

 それは国内問題だけを切り離して論議する、片肺飛行ではないのか。

 ゲストに来られた時、対米関係と戦後レジームの否定との相関関係については、ぜひ伺ってみたく思っていました。

 それが震災で実現せず、はや幾年月。

 原発推進にせよ、男系固執による皇統断絶の誘導にせよ、「美しい日本」を汚し、壊すのは誰なのか、訊くまでもなく答えが出てしまっているような状況で、国防すらも人気取りパフォーマンスに堕としてしまった安倍首相。 

 しかし問題なのは今回の件、リベラル派は「安倍首相が戦争を起こそうとしている」の一点張りで、自称保守派は「安倍首相よくやってくれた」のマンセー状態一点張り。

 実は、武装した世界に丸腰で放りだされることを意味しかねないなんてことは考えもしない。

 どちらの陣営も、何かを言った気になったり、考えた気になったりしていればいい、昨日までの日常が永遠に続くと思っているのでしょうか。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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